IBUKI

 

焦らず、急がず、たゆまず、己の一歩を刻む。

 

 

豊國酒造は福島県の仲通り南部山間にある古殿町にある。

 

古殿町は、高い標高の山々に囲まれ、美しい自然、綺麗な水、稲作が盛んにおこなわれる町だ。

秋には、鎌倉時代から続く神事、流鏑馬が有名でもある。

 

この町に、日本全国の酒ファンが注目する急成長の日本酒蔵がある。

それが、IBUKIを造る豊國酒造だ。

 

豊國酒造は、1830年創業。280年の歴史を持つ老舗蔵である。

 

全国新酒鑑評会で金賞受賞も数えきれないほどの実力蔵であり、

2010年には最大の杜氏集団・南部杜氏のコンテストでチャンピオンになっている。

しかし、これまでほとんど福島のみのエリアでのみ販売を行い、県外への出荷はほぼ行っていなかった。

 

豊國酒造の今を語る上で、9代目蔵元矢内賢征の名前をあげなければならない。

彼は東京の大学を卒業後、自分の家に戻り、酒造りを開始した。

子供の頃から酒造りをすぐそばで見て育った彼だが、実際に酒造りをおこなうと、その難しさは想像を超えていたという。

 

彼は豊國酒造に戻った後、これまで杜氏を詰めた簗田杜氏から急スピードで多くを学ぶ。

優れた醸造家を育成すると評判の福島の酒アカデミーでも多くを学び、以後、急激な成長を遂げる。

 

簗田杜氏は、南部杜氏で2010年にチャンピョン酒を造るほどの、有名な超有名な人物である。

ただし、彼は高齢であり、これ以上の酒造りは難しかった。

そのまさにギリギリのタイミングで、9代目の矢内賢征が蔵に帰ってきたのは、偶然ではないだろう。

 

彼らは2011年に一歩己という自分が名付けたお酒を作り出した。

いぶきとは、命が生まれること、深く自然の中で呼吸することなどを意味するが、

彼らはこの言葉に、一歩ずつ、己と向き合い、前に進むという漢字を用い、このお酒を命名した。

 

彼曰く、最初のお酒はまったく合格点には至らなかったそうだ。

それから、師匠、先生、仲間、そして、自分とお酒と向き合い、

旨味、香り、味わい、あらゆる要素を一歩ずつ改善させ、

一歩己は回りが驚くほどのスピードで進化を遂げる。

 

今や、福島のエースと言われる、廣戸川のお酒と並んで、

次世代の福島のお酒を引っ張る蔵元として、評価されている。

廣戸川の松崎とは同じ福島の仲通りにある酒蔵であると同時に、同世代ということもあり、非常に仲がいい。

二人はお互いを尊敬し、どうしらたおいしい酒ができるか、よく討論をしているそうだ。 

矢内をモデルにしたいくつかの酒の著作もでているほど、圧倒的な魅力を持つ酒蔵だ。

 

彼の酒造りの哲学は、この一歩己の名前にある通り、

一歩ずつ前にすすむ、みんなのエールになるようなそんなお酒を目指している。

そして、同時に彼はまだ、地元古殿町の美しさ、素晴らしさを多くの人に伝えていきたいという想いをもっている。

とても小さな町だが、しかし本当に自然が豊かで、温かい空気が流れる素晴らしい町だ。

 

一歩己は、軟水をベースに美山錦を使った、爽やかなお酒をベースにしつつ、

旨味もある美しいお酒で、クラシックとモダンの融合した味わい。

 

一歩己はこれからも前に進み続ける。

彼らの目指す理想に向けて、成長を続ける。

私達は彼が作り出す一歩己をのむことで、彼の努力とその進化の行方を知ることができる。

 

そしてこのお酒の名前の通り、彼とともに、私達も一歩ずつ前に進んでいこう。